息子は水のある場所が好きです。
打ち寄せる波、キラキラ光る湖の水面、公園の噴水、蛇口から流れる水道水。
かつて、ここぞという場所を見つけると、息子は絶対にそこを動きたくはないという確固たる意志をもって、その場にしがみつきました。
こうなってしまうとこちらは大変です。
その後のスケジュールは予定通りに進める事が難しくなります。
どうすれば上手に気持ちを切り替えることができるのか、いろいろと考えていたときにこんな事を思いつきました。
"もしかしたら息子は、二度とこの場所に来られないと考えているのかもしれない。"
少し話が逸れますが、人は水のある場所が好きです。意識的にも無意識でも、気付けば人は水のある場所に集まりがちです。
海水浴場、プール、温泉、水族館、テーマパーク。生物が生きていく上で、水は絶対的に必要なものですから、不思議な話ではありません。
ただし、定型発達者(健常者)は、水のある場所に執着し、その場から動かなくなるという事は基本的にしません。
なぜなら、その気になればいつでもその場所に行けるからです。いつでも来られると思えば、その場に固執する必要もなく、気兼ねせず立ち去る事もできます。
しかし、自閉症の息子にとっては違います。
これから先この素敵な場所に再び来られるという確証が持てません。
だから、出来るだけ長くこの場にいたいと行動で示そうとするのでしょう。
それならば、またここに来られるという確証が持てれば、上手に切り替えられるかもしれないと私は考えました。
私は「また来ようね」と声をかけてみました。
そうすると、息子はすんなりとその場を離れる事が出来ました。
自閉症児との生活の中で、その子が、ある場所から動かないという経験をすれば、次回からはその場所を通らないようにしたり、避けるべき場所にしてしまいがちです。
しかし、そうする事がさらに、自閉症児の場所に対する固執を強めているのかもしれません。
二度と来られないと思ったら、抵抗は激しくなるでしょう。私たちも、なかなか行くことができない遠出の旅行の時など、その場所から離れる事が、名残惜しく感じるものではないでしょうか。
《またすぐに来られる》という安心感を持たせるために「また来ようね」と声をかけ、次に出来るだけ早くその場所に再び連れて行き、《また来られた》という実感を持たせることが、場所に対するこだわりの解消に繋がりやすいと発見しました。
今でも息子には、お気に入りの水のある場所がいくつかあって、今でも定期的に連れて行くようにしています。