創作意欲が湧く映画はいろいろありますが、創作意欲そのものを肯定してくれる映画はなかなかありません。この『ブリグズビー・ベア』はそんな作品です。
以下あらすじです。序盤のネタバレがあります。予備知識ゼロで観たい方はまず本編をご覧下さい。
"25歳のジェームズは両親のデッドとエイプリルとともに地下シェルターに住んでいます。世界の人々はほぼ死滅し、大気は毒ガスに満ちているため屋外に出る事はほとんど出来ません。それでも3人はその場所で仲良く暮らしていました。
ジェームズの唯一の楽しみは毎月届くブリグズビー・ベアのビデオテープです。ブリグズビー・ベアは熊がモチーフのキャラクターで毎回様々な冒険の物語を繰り広げます。ジェームズはそのキャラクターに魅了され、部屋もグッズも洋服もブリグズビー・ベア一色です。
ある日ジェームズは両親の隙を見てガスマスクを装着し禁止されているシェルターの外へ出ます。ぼんやりと夜の荒野を眺めていると、遠くからこちらに向かってくる数台の警察車両を発見します。慌てたジェームズはシェルターに戻りその事を両親に告げようとします。しかし、シェルターには警官達がなだれ込み、両親を押さえつけ手錠をかけます。父親のデッドが言います。
「許してくれジェームズ、おまえを愛している。」
警察に保護されたジェームズは自分が赤ん坊の頃に誘拐され、両親と思っていた誘拐犯に25年間監禁されていたという事実を知らされます。実際の世の中は死滅もしていなければ毒ガスも無く、ブリグズビー・ベアはデッドとエイプリルがジェームズだけのために自作自演で撮影したものでした。
ジェームズは監禁され失われた25年間の人生よりも大好きなブリグズビー・ベアを知る人が誰もいない事、ブリグズビー・ベアの続きが二度と見られないことにショックを受けます。そして、ジェームズは本来の両親との新たな生活を送りながらも、自ら映画の作り方を学習し、証拠品として押収された着ぐるみを使ってブリグズビー・ベアの完結編を作る事を決意します。"
ものを作る人間にとってついて回る呪いがあります。それは"クオリティ"です。クオリティ(品質)が低い=価値がない、という呪いのせいで、技術や評価にこだわりすぎた結果、素晴らしいアイデアや可能性がどれだけ消えて行ったことでしょう。
この作品を観るとそういったテクニックとか見た目より、本当に自分の大好きなもの、信じたものを創造する事の価値に改めて気付かされます。現在、進行形で何かを作っている人、作る事を夢見ている人、あきらめた人、全ての人におすすめです。
監督:デイヴ・マッカリー『ブリグズビー・ベア』2017年