私は、ハンディキャップによって覚醒する潜在能力というテーマに興味があります。
物語では頻繁に用いられる設定ですが、困難な状況を、努力や鍛錬により、自らの手で切り開いて行くというテーマが普遍的で、誰の胸にも響くからこそ、好まれる設定なのではないかと思います。
『目の見えない人は世界をどう見ているのか』の著者は、視覚障害者の空間認識、感覚の使い方、体の使い方、コミュニケーションの仕方、生きるための戦略としてのユーモアなどを、当事者の実際の体験談をもとに考察していきます。
本書の小見出しをいくつか抜粋してみます。
・視野を持たないゆえに視野が広がる
・視覚がないから死角がない
・見えない人ならではの「構え」
・他人の目で物を見る
小見出しからすでに、内容を詳しく知りたくなる魅力を醸し出していませんか?
それぞれの項には、私が読みたかった、人間の潜在能力に関する驚きのエピソードが満載でした。
"見えない人ならではの「構え」"の項には、白杖の男性が電車の中でつり革にも手すりにも捕まらず、急ブレーキによろめくこともなかった、という話が出てきます。
視力を持つものにとって、足は運動器官ですが、視覚障害者の足は、運動と感覚の両方の機能を有しているといいます。
それ故、電車の中という不安で場所でも、常に足で重心を探りながらバランスをとっているため、揺れを予想しやすい。つまり、足で「見る」ということを恒常的に行っているそうです。
上記のエピソードの他にも、人間の身体能力の可能性を感じるエピソードばかりが本書に収められており、感心するばかりでした。
本書を読んで、視覚障害者の能力について、一部理解することができたと思います。
そして同時に、今この文章を読めているような、視覚を持つ私たちこそ、見えないものに対して鈍感になっているのかもしれないと気づくこともできました。
また、障害者福祉やソーシャル・インクルージョン(社会的包括)の取り組みに関しても、本書は参考になるのではないでしょうか。
おすすめの一冊です。
伊藤亜紗『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(2015,4,20)光文社新書