自閉症スペクトラムとのの関わりにおいて、遺伝というテーマはよく目にします。
自閉症スペクトラムというものを、困難なものとして捉えるならば、自分の人生から遠ざけたいと思うのは当然の事だと思います。
今回は自閉症スペクトラムと遺伝の関係について、安藤寿康『日本人の9割が知らない遺伝の真実』を参考に、私の考えた事を書いてみよう思います。
書く事は3つです。
・自閉症は遺伝する
・自閉症の遺伝のしくみ
・遺伝からみる自閉症の療育
自閉症は遺伝する
遺伝の影響を調べるための手法は「双生児法」という方法が用いられます。
遺伝子が100%同じ一卵性双生児と、50%類似している二卵性双生児の類似性を比較し、一卵性双生児の方が似ているのであれば、それは遺伝の影響によるものだと考えます。
例えば、一卵性双生児と二卵性双生児、それぞれの双子を比べ、顔の似ている方の双子が一卵性双生児なのであれば、それは遺伝の影響であると判断する、といった感じです。
「双生児法」を用いて、18年間、子どもから青年までのグループ500組、成人のグループ500組でデータを取り、形質が遺伝で決定されるとされたもの上位10を挙げてみます。
1・指紋のパターン
2・身長
3・体重
4・音楽
5・数学
6・スポーツ
7・執筆
8・自閉症
9・統合失調症
10・ADHD
※参考書籍p81・図7より引用
以上の10項目は全て8割以上が遺伝の影響によって決定されるものとされます。
8位の自閉症は、遺伝によって決定されたものということになります。
自閉症遺伝のしくみ
自閉症が、遺伝で形成されるものの8位だからといって、その子どもの親のほとんどが自閉症であるというわけではありません。
自閉症は単一遺伝子が原因で起こる「メンデル型遺伝疾患」ではなく、複数の遺伝子の変化が影響して起こる「多因子遺伝疾患」であるといわれます。
自閉症になるかならないのかの遺伝的要因は、血液型のような単純なものではなく、要素も組み合わせも複雑なものなのです。
したがって、自閉症として生まれた要因は、両親の遺伝的要因ではあるけれども、親や親戚が自閉症だから子どもが自閉症になるという単純なものではなく、たとえ両親ともに自閉症の親だとしても、自閉症ではない定型発達の子どもは生まれることはあり、両親とも定型発達の親からでも自閉症の子どもか生まれることはある、ということになります。
遺伝からみる自閉症の療育
先述の《自閉症は遺伝子する》で書いたように、人の能力が遺伝的要素によって決定されているのであれば、人の能力が努力によって全てが補えるという考え方は科学的ではありません。
補える部分はあっても、指紋と形のように、努力ではどうにもならない部分もあるという認識を持つべきだと考えます。
親の子育てにおいて、参考書籍にはこうあります。
” 子育て本のパターン通りに誰にでも当てはまる教科書のようなかかわりをするのではなく、自分が経てきた経験に根差す価値観(遺伝的な相似性)に基づいて、子どもの中にある形質を見つけるよう努力することだと思います。"
※テクストp125より引用
以前、自閉症と療育という記事で療育について書きましたが、療育とは"障害をもちつつ成長する子どもをいろいろな 面から支える、総体的な取り組み"を指します。
無闇に社会的な価値観を刷り込むのではなく、"子どもの中にある形質"に目を向けるという考え方は、療育の本質であると言えるのではないでしょうか。
また、子どもの中の形質に目を向ける際にも、遺伝的に近い"親自身の経験や記憶"が手掛かりになるという点も、手掛かりを見つけにくい自閉症スペクトラムの療育において、とても参考になる意見だと思います。
まとめ
以上、"自閉症は遺伝するのか"というテーマで書いてみました。
・自閉症は遺伝によって起きる。
・両親や親戚が自閉症であっても子どもが自閉症になるとは限らない。
・自閉症の療育においては、自分の経験を振り返りながら、子どもの中の形質に目を向けることが大切。
と、いった事が今回の内容でした。
今回テクストとした『日本人の9割が知らない遺伝の真実』は遺伝のしくみだけでなく、自閉症スペクトラムの療育や関わりにおいても、とても役立つ本だと思います。
不要不急の外出が自粛されている今、是非読んでみる事をおススメします。
安藤寿康『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(2016,12,15)SB新書