この画像は私がブルース・リー作品の中で、というより全ての映画作品の中で最も好きな『ドラゴンへの道』の冒頭です。
田舎から単身都会にやって来た主人公が空港で待ち人を待っていると、さっきからなぜか隣のご婦人にガン見されていて、言葉が通じないので話すことも、待ち合わせの場所なので立ち去ることもできず、どうしたらいいのかわからない、というシーンです。
人は極度の緊張状態になると"無(む)"になってしまうということを、この表情が見事に表現しています。しかも、それが最強の格闘家であるというところがコミカルでもあり、同時に主人公のチャーミングな人柄がとてもよく表れていて、私はこのシーンを何回観ても飽きることがありません。
ブルース・リーがこの世を去ってから来年で50年になります。
今となっては、ブルース・リーの映画を観たことが無いという人も多いでしょう。
それでもたまに、「ああ、ブルー スリーって、あのアチョーって言う人でしょ?」と、仰られる方にお会いしますが、そんな時、私は丁寧にこう申し上げるようにしています。
「残念ですが、今、仰ったお言葉には一つも正解はございません。まず、ブルー・スリーではなくブルース・リーです。英語名でBruce Lee。漢字名は李小龍。読み方はリー・シャオロン。そして先程の"アチョー"とは作中の主人公の発する怪鳥音の事を指しておられるのだと思いますが、アチョーという怪鳥音は全作品を通してほぼ見つけることはできません。基本型はアチャ、アタッ、もしくはホァタァー。母音はほぼ「a」となります。母音が「o」になることもありますが、その場合はアトッ、ホォー、もしくはオオオォーッとなります。百歩譲って『燃えよドラゴン』におけるオハラ戦のサイドキックのシーンがアチョーに近い怪鳥音ですが、正確には「オァアァァ トォオオォォー」と、聞こえます。さらに言ってしまうと、ブルース・リーの怪鳥音は全て別人による吹き替えなので、ブルース・リーの実際の肉声ではありません。つまり、まとめますとブルース・リーはブルー・スリーではなく、アチョーと言う人でもないということになります。」
お察しの通り、かなり面倒臭いブルース・リーおじさんであることは自覚しております。
ブルース・リー作品に出会ってから数十年、作品を見直し、その魅力の再認識を繰り返し続けた結果こんな感じになってしまいました。
ですので、ブルース・リーについて語りたいことは無限にあるのですが、今回は是非ともおすすめしたいユーチューバーの話をします。
前置きが長くなってしまったのでさっさと進めましょう。とにかく、こちらの動画をご覧下さい。
いかがでしょう。私は久しぶりに声を上げて、いや涙を流して笑いました。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、この動画はブルース・リーが生前に撮影していた未公開フィルムを無理矢理合成して制作された『死亡遊戯』という作品のラストバトルを再現した動画です。
演じているのは森累珠(もりるいす)という女優さんとそのお母さん。
家でやってる感、家にある物でやってる感が、馬鹿馬鹿しくもあり最高です。ヌンチャクの技術もさる事ながら、衣装や小道具、セット、背景、所作など、細部にわたりブルース・リー愛に満ち溢れています。
何より、娘と母親が本気でブルース・リー映画の名シーンを再現するという発想と、実際にやってしまう(演れてしまう)親娘の演技力がこの動画の勝因です。家の障子に目をつけたところもナイスアイデア!
こんなのもあります。
こちらは怪鳥音の部分で少し触れた『燃えよドラゴン』の"オハラ戦"です。
最後のスローの表情!目線の動きも完璧です。
エキストラの観衆を紙に印刷して貼っただけという手法がここまで違和感が無いということに驚きます。
死亡遊戯、燃えよドラゴン、ときたので、せっかくなのでこちらも。
こちらも前述で触れた『ドラゴンへの道』の冒頭のシーンです。レストランに入ってもまだ"無"が抜けきれていない主人公の表情がよく出ています。
一瞬しか映らないメニューをしっかり作り込んでいるところや、スープの再現度がやたら高いところも素晴らしい!
いかがでしたでしょうか。
ブルース・リーという人物が残したものは映画だけでなく、格闘術、アートワーク、思想や哲学に至るまで多岐に渡りますが、今回の動画のように、ブルース・リーフォロワーが死後50年経った現在も生まれ続けている事が、ブルース・リーの魅力の証であり、最も偉大な功績なのではないかと思います。
私も面倒くさいブルース・リーおじさんとして今後も精進して行きたいと思っています。
今回ご紹介した動画はYouTubeのるいちゅーぶというチャンネルにアップしてあります。
抱腹絶倒の動画が多数アップされているので、気になった方は是非他の作品もご覧になってみてください。香港映画ではお馴染みのNG集も最高でしたよ!