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映画『岬の兄弟』はオススメできませんがオススメな理由

 

   私は映画が好きで、自閉症の息子と暮らしているということもあって、自閉症を扱った映画作品は殆ど観ています。

   共感できる場面が多い事ことも鑑賞理由ではありますが、障がいを扱った作品は、他ジャンルに比べ複雑な人間心理を描いている場合が多く、面白い、というのが鑑賞する一番の理由です。

  実際に、優れた作品が多く存在します。

   

  昨年公開された 『岬の兄妹』は下肢の機能障碍を持った兄と自閉症の妹の話です。

"  兄の"良夫"は、自閉症の妹"真理子"が町の男に体を許し金銭を受け取っていたことを知り激しくしかりつけます。しかし、貧困による生活苦のため、良夫は罪の意識を持ちつつも真理子の売春を斡旋するようになってしまいます。

   犯罪に手を染めた事をきっかけに、兄妹の人生は変化していきます。"

  

   

 正直、映画の序盤を鑑賞中、この作品を観たことを後悔してました。

    障がいや貧困を扱った作品を沢山観てきているので、自分には耐性があると自負していたのですが、次々と起きる露悪的とも言える過激な描写に途中で観るのが辛くなり、いっそのこと観るのをやめてしまおうかと考えていました。

   それでも、「見始めたらからには逃げずに見届けなくては!」という謎の義務感で耐え続けていると、徐々に作品の持つ魅力が見えてきました。

 

    結論から言うと、この『岬の兄妹』は傑作です。

 

    作品の序盤に描かれる、目を覆うような過激な描写は、私達が見る事を避けてきた現実を、受け入れるための試金石だった事に気づきます。

   その後に見えてくる、生きている人間の豊かさと逞しさ、そしてユーモア。

   素晴らしい作品でした。途中で投げ出さなくてよかったです。

   残念ながら万人にはおすすめできません。それくらい過激な描写が多いため、鑑賞には心の準備を要する映画だと思います。

 

   見たくないものを見るということはそれ相応のストレスが伴います。

   しかし、見たくないものが無価値とは限りません。

   ずっと避けていたものを敢えて見つめた時、自分の中に新たな価値観が芽生え、これからの人生が、より自由になる可能性が生まれるのではないでしょうか。

  それを描くことに成功している『岬の兄妹』は価値のある作品であり、私が傑作と推す理由です。

   

    最後に1つだけ言わなければいけないことがあります。

    今まで、多くの自閉症映画を観てきましたが、自閉症の演技ではこの作品の真理子役"和田光沙"さんがダントツで主演女優賞です!

   観賞中「本当の自閉症の人にこんな役やらせて大丈夫なのか!?」と、ずっと思ってましたが、演技と知って驚愕しました。

   「レインマン」のダスティン・ホフマン、「ギルバート・グレイプ」のディカプリオ、「母なる証明」のウォンビン、「くちづけ」の宅間孝行、に全く引けを取らない演技でした。凄かった。

 

監督:片山慎三『岬の兄妹』2019  R15+

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