OTHERS

2011年3月11日 私に起きた変化

  

 2011年3月11日、9歳だった自閉症の息子は、地震の強い揺れの恐怖にパニックを起こし、ベッドにしがみつきながら叫び声を上げていました。

   そんな息子を強引に担ぎ、屋外に出た私は、家の外階段に二人で並んで座りながら、大縄跳びの縄のように激しく揺れる電線を、しばらく見つめていました。

    その電線を見ながら吸っていた煙草が、私の最後の喫煙の記憶です。

 

 

  それまでの私はヘビースモーカーで、ピースライトを毎日二箱は吸っていました。

   煙草は私にとってカッコいい大人の象徴に思えて、それまでに禁煙を考えた事など一度もありませんでした。

   煙草を吸っている時間は至福の時間でしたし、禁煙したら負けくらいの事は思っていたと思います。

  しかし、 2011年の311日から連日繰り返し報道される被害の大きさを目の当たりにし、これから日本で生活していく中で、煙草が吸えない事で感じるフラストレーションは不自由だと感じた私は、突然煙草をやめる決心をしました。

 

 

   今思えば、震災と禁煙はあまり繋がらないような気がしますが、テレビで見る被災地の映像などに精神的なストレスを感じ、関連しないものを無理矢理繋いでしまうくらい情緒が不安定だったのかもしれません。

   それでもあの時は、きっと震災後の日本国内の状況はどんどん悪くなり、煙草やお酒のような依存性の高いものはどんどん課税され、何かに依存しないと生きていけないような精神的に弱い人々にとって、生きていく事さえ難しい世の中になってしまうに違いない、と想像していました。

   今までと同じ自分では、これから生きていく事は難しくなると思った私は、煙草を吸わない自分になる事で、自分を変えた実績のようなものも手に入れようとしたのだと思います。

 

 

   あれから9年の年月が経ち、私が想像していたような事が起きているのか、起きていないのかは、その人の立場によって見え方は変わるでしょう。

   私は、禁煙をした事で、体重は増えましたし、健康になったという自覚もありません。

  煙草との時間を失った代わりに、増えたのは映画を観る時間と読書量です。

  それは今もずっと続いていて、多分、違う自分になりたいと思う衝動は現在も続いているのだと思います。

 

 

   たまに今煙草を吸ったらどんな感じかな、と思う事があります。

   それでも、あえて吸わないのは、自分は変わったのだ、変えることに成功したのだと思っていたいからなのかもしれません。

   そんな小さな支えでも、何かに挫けそうな時に、自分を助けてくれています。

 

-OTHERS

Copyright© MASS hair studio , 2024 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.