断捨離とは、入ってくる物を断ち、いらない物を捨て、物への執着から離れることを言います。しかし、エッセイ『もたない男』はむしろ物を捨てるという執着に取り憑かれた"スッキリ病"の著者の日常が描かれます。
著者の本業は漫画家です。ある日、仕事部屋に物があるから仕事に集中できないのだと思い、つい遊んでしまうパソコンを捨てます。次に携帯があるからという理由で固定電話を捨て、ソファを捨て、襖を捨て、備え付けのため捨てられないガスコンロを押入れに仕舞い、寄りかかる必要も無いからと椅子の背もたれにノコギリを入れます。
この感じがエスカレートしていきます。著者は、物を捨てる快感を自らスッキリ病と名付けます。
ボールペンのインクが減っていくのに本体が長いままなのが我慢できずボールペンの本体をカッターで切ります。本も2〜3ミリ読んだら破って捨てるを繰り返します。百均で2個で100円の消しゴムも予備は無駄と1個は捨てます。このあたりで読んでいる方も著者の異常性に気付くでしょう。
スッキリ病による失敗も生まれます。ある日、自分オートバイを見ていたらフロントフェンダーとリアフェンダーが無駄に思えてきて捨てます。なんの支障もないと喜んでいたら、雨の日にオートバイに乗ると泥まみれになってしまったそうです。また、本やCDを買っても、カバーも袋も断るのでよく万引きに間違われるそうです。
以上は本編のほんの一部です。私はこれを読みながら幾度となく爆笑し、あらためて著者である中崎タツヤという漫画家の面白さを 再認識しました。
断捨離とは全然違う、スッキリ病という極端な癖を持ってしまった著者の、抱腹絶倒なエピソードを是非ご堪能下さい。おすすめです。
中崎タツヤ『もたない男』(2014,6,1)新潮文庫