少しでも映画に関心のある人であれば、現在公開中の映画『ミッドサマー』(ホラー映画)の評判は耳にしていると思います。
そして、まだ観ていない人、もしくは観るべきか迷っている人も、最も気になるところは、「怖いのが苦手な人が観ても大丈夫なのか」なのではないでしょうか。
本作品のアリ・アスター監督の前作であり初監督作品の『ヘレディタリー/継承』(ホラー映画)を観た人であれば、そんな気持ちになるのも当然だと思います。
数々の映画祭において高評価を得た『ヘレディタリー/継承』の美しい映像にもかかわらず、ショッキングな演出とストーリーは、どんなに評判が良くても観るものを選ぶ作品であった事は間違いありません。
カンヌ国際映画祭での途中退席者が続出したにも関わらず、上映終了後のスタンディングオベーションが鳴り止まなかったというエピソードが、好みが分かれるという事実を物語っているのではないでしょうか。
では、今回の『ミッドサマー(ディレクターズカット版)』はどうだったのか、観るものを選ぶ作品だったのか、怖いのが苦手な人が観ても大丈夫な作品なのかを、順を追って説明していきます。
『ミッドサマー』あらすじ
" 家族を不慮の事故で失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人と共にスウェーデンの奥地で開かれる”90年に一度の祝祭”を訪れます。
美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えました。
しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていきます。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは想像を絶する悪夢の始まりでした。 "
映画『ミッドサマー(ディレクターズカット版)』が怖くなくなる3つの見方
結論から言うと、この『ミッドサマー(ディレクターズカット版)』も『ヘレディタリー/継承』と同じく、観る人を選びます。
ショッキングな場面が苦手な方(過激なシーンがあります)、体調が良くない方(感情に負担やストレスがかかります)、18歳未満(R18+)、にはおすすめできません。
だからといって、決して面白くない映画なわけではありません。映画としての完成度は高く、170分の上映時間も全く長く感じませんでした。
なので、ホラーは苦手なのに付き合いで観ることになってしまった、ちょっとだけ興味もある、映画館に来たけれど観たい映画が無い、という方に向けて、あまり怖さを意識せずにこの作品を観るポイントを挙げてみたいと思います。
ポイントは3つです。
1・恋愛映画として観る
2・絵画鑑賞として観る
3・文化人類学として観る
順番に説明します。
1・恋愛映画として観る
パンフレットのアリ・アスター監督のインタビュー記事には、"当時、恋人と別れたばかりで、それを描写する手段を探していた"と、あります。
劇中に描かれる主人公と恋人の関係は、意思の疎通が微妙に食い違い、そのうまく噛み合わない様子は恋愛ドラマとして、とてもリアリティがありました。少しでも恋愛を経験した事がある人であれば共感出来ると思います。
二人の恋愛模様に焦点を当ててみれば、他は風景のようなものです。
2・絵画鑑賞として観る
映像がとても美しい作品でした。
特に色彩が鮮やかで、不穏な雰囲気との不思議なバランスが、まるでシュールレアリズムの絵画を観ているような気持ちになります。
絵画の鑑賞として観ると、表現の手法に意識か向くので怖さが半減します。
3・文化人類学として楽しむ
文化人類学とは、人間の生活様式全体(生活や活動)の具体的なあり方を研究する人類学の一分野です。
劇中に行われる様々な残酷な儀式や習慣は、史実として実際に行われていた事をモチーフにしているそうです。
目を覆いたくなるような残酷な習慣ですが、日本国内の歴史にも、今では考えられないような残酷な風習はありました。
姥捨、切腹、口減らし、人柱など、挙げればきりがないくらい出てきます。
これらの習慣を、野蛮だった、無知だったで片付けるのではなく、そうせざるを得なかった理由を想像してみると、本作の見え方も変化するでしょう。
環境が変わればルールは変わります。
自分の住む世界のルールが、全ての環境に通用するするとは限りません。
異文化の研究や調査には、様々事態を想定した備えや、自分達の価値観とは異質なものと向き合うという心の準備が必要です。
そこを踏まえた上で文化人類学的な見方をすると、怖さよりも知見として作品を鑑賞することも出来るのではないでしょうか。
まとめ
以上が私の提案する『ミッドサマー(ディレクターズカット版)』の怖さが半減する見方です。
くれぐれも、ホラー映画が苦手な方にはあまりおすすめしません。
そんなことがあるかどうかはわかりませんが、どうしても観なくてはならないような状況になってしまった場合は、参考にして頂けたらと思います。
何度も言いますが、映画の完成度に関しては優れた作品であることは間違いはありません。
個人的には自信を持っておススメします。
監督:アリ・アスター『ミッドサマー(ディレクターズカット版)』2020年