イラン映画と聞いてあまりピンとこない人も多いかと思います。
1978年のイラン革命以前のイラン映画は、商業的娯楽作品が主でした。
革命以降のイラン映画は宗教的検閲が強まった事により、社会的、文学的な作品が増え、映画祭の出品、受賞により世界的にも高く評価されるようになりました。
イラン映画を掘り下げていくとある監督に辿り着きます。
"アッバス・キアロスタミ"
近代のイラン映画の基礎を作った監督です。
素人を役者として起用し、演技力よりも自然な人間の表情や仕草を大切にした作風は、フィクションとドキュメンタリーの良いところが融合したリアルで説得力のあるドラマを表現することに成功しています。
素朴で純粋な人間模様と美しい映像に感動し、私は一時期アッバス・キアロスタミ作品ばかりを観まくっていた時期がありました。
今回はアッバス・キアロスタミという監督の名を世に知らしめた『友達のうちはどこ?』という作品をご紹介したいと思います。
~あらすじ~
" 主人公の小学生アハマッドは、間違ってクラスメートのモハマッドの宿題用ノートを持ち帰ってしまいます。「宿題を忘れた者は退学になる」と先生に聞かされていたアハマッドは、ノートを返そうと、行ったことのないモハマッドの家を探します。"
アハマッドがノートを返しに行くモハマッドの家は、日本の、小学校の学区内の距離にあるような家ではありません。
山を越え谷を越え、小学生の足で数時間もかかる距離です。
しかもモハマッドの住む町にやっとたどり着いても、手がかりはモハマッドという名前だけです。通りがかりの大人に尋ねてもモハマッドという名前が多すぎて特定できません、徐々に日が暮れてゆく町を少年がさまよう、という話です。
イラン版"はじめてのおつかい"といったところでしょうか。
友人にノートを返すためだけに奔走する少年の健気な姿が、観るものの胸を打つ素晴らしい作品でした。
私がイラン映画にはまった理由の一つに、私にとってイランが未知の国だったということが挙げられます。
映画の中に映し出される、見たこともない景色、生活、文化を観ていると、見知らぬ世界に迷い込んでしまったような気持ちになります。
決して豊かとは言えない荒れた大地。広がる荒野。
しかし、そこに住む人々の優しさや温かさを感じられたなら、きっとその場所が好きになります。
そして、また訪れたいと思わずにいられないといった、旅をした時の感覚を、イランの映画を観ながら感じ取る事が出来ました。
観光地のような煌びやかさはなくても、予想を超えた感動や、収穫を得ることが出来たとき、その旅の価値は上がります。
そんな予想を越えた旅の喜びをイランの映画がもたらしてくれました。
なかなか外出が厳しいご時世ですが、見知らぬ国の映画作品を観ながら、旅の気分を味わってみるのもいいのではないでしょうか。
イラン映画はおススメです。
監督:アッバス・キアロスタミ『友達のうちはどこ?』1987年